医学部合格の先にある“本当の力”

医学部受験の現実と求められる力

過去30年間の日本社会の停滞と先行き不透明な世界情勢の元で、18歳段階での日本社会の最優秀層は須く医学部を志願する状況にあり、医学部入試は熾烈を極めています。この医学部入試を突破するためには、下記の2点が求められます。
1)学力試験で合格者最低点を超えること
2)面接試験で合格者最低点を超えること
第一に、学力試験合格の為には、試験が開始される前に合格者最低点を超える学力水準に達しておくことが不可欠の条件でありますが、会場の設備状況、会場を包む緊張感等、不確定要素の高い試験会場の元で、前後左右見知らぬ受験生に囲まれ、首筋に背後の受験生の吐息と咳を不断に生々しく触知する条件下で試験を遂行し、合格点を確保できる心身の状態が整備されていることは大前提の条件となります。 第二に、面接試験合格の為には、受験勉強が自身の資質に適合し、仮に自尊心充足のために試験勉強に邁進した結果行き着いた先としての医学部入試であったとしても、あるいは、仮に医師免許取得後の日本社会での安全保障を夢見て行き着いた先であったとしても、面接試験の場で偶々出会った面接試験官達の感覚からして「社会性として適切」と納得し得る佇まいを以て回答が出来る程度に、社会性が整備された状態であることが条件となります。人材は放っておいても幾らでも集まる国内全ての医学部の状況にあって、全ての受験生の存在は相対化されて品定めされ、受験生の個人的事情や想いは全く関係無く、医学部側が必要と考える人材を選別することができる事実は銘記する必要があります。このような医学部入試に備えるに当たり、受験生を選別する医学部側の視点に立って、医学部受験生の状態を整備するべきなのです。
先ず、医学部入試が入学後の勉強に耐えられる基礎学力を試す試験であることから、勉強の性質の変化を俯瞰してみます。
医学部合格までの学習の中心は、数学, 物理, 化学といった科目における演繹的な問題解決能力の競い合いに偏ります。概念を噛み締めて味わう資質よりも、限られた知識範囲で知識を使いこなす情報処理能力が試されます。国家総合職に見られるキャリア官僚登用試験への適性で序列化される試験と云えるでしょう。しかしやり方は気をつけねばなりません。たとえばたった今、医学部受験生の皆さんが1年後に、超難関中学の入試で合格最低点を超えることが医学部入学の条件として求められた場合、恐らく多数派は「競争率の高い試験かもしれないけれども、準備して合格最低点を超えられないとは思わない」という心の声を聞くことでしょう。それは皆さんの知識レベルが中高6年間の勉強を経て向上し超難関中学入試を俯瞰できる視座にあるからです。
一方、合格点を取る為には依然としてある程度の練習を要することでしょう。しかし、来る日も来る日も、中学受験の勉強に邁進したとすれ ば、知的には大停滞であり、その後の知的活動に大きな遅れを取ることは想像に難くありません。つまり、次の勉強へ進むことをきちんと意識することが必要なのです。

入試と入学後で変わる「勉強の質」

医学部入学後は求められる資質は一変し、4年生頃までの座学期間は演繹的資質よりもむしろ、粘り強く知識を習得し続ける力が求められます。入試で培われた演繹的思考力はその為の基礎となりますが、集団の中で協調しながら、沢山の知識を、基本的には毎回の授業毎に丸暗記し、定期試験等でアウトプットする能力がより重要となるのです。 この入学前後での勉強の変化に適応出来ない人達はかなりの割合で存在します。逆説的ですが、医学部入試に過剰に適性を見せた人達の中に一 定数、留年や中退の道を辿った人達を私は知っています。
しかし、「大学入試で問われた理数系の演繹的能力は医者に向いているか否かには関係無い!」と考えるのは、早計であります。それはあたかも、私が公立中学1年生時代に聞いたクラスメートの中に数学の学習困難に耐えかねて「連立方程式なんか解けなくても 大丈夫!」と発言に似たものを、皆さんも患者さんも感じとることでしょう。

医師という職業に求められる「社会性」と「利他性」

次に、誰もが理解し、面接試験で語ることができるにもかかわらず、内面化し続けることが難しいことがあります。それは、医師が社会の要請に応えるべき職業であり、利他的な存在であることが社会から強く求められるという事実です。医学部卒業と同時に、患者さんは皆さんの個人的な自尊心には関心を示しません。患者さんにとって重要なのは、 皆さんが苦しみから救済してくれる力を持っているか否か、ただ一点なのです。医師免許取得後は、自己利益を最優先するあり方から、他者のために尽力する利他的な振る舞いへの変容が強く求められます。ここで の意識変化に適応出来ずに、「自分の人生は何だったのか…」と後で後悔する人達を私は沢山知っています。 こうして考えると、医学部受験から始まる一連の道のりは、まさに全人的な成長を促す人間修行の過程と言えるでしょう。以上、これから皆さんが受ける選抜を俯瞰しました。これからの連載では、「ではどうすべきか?」詳細を述べていきたいと思います。

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