医学部受験で小論文・面接試験が課される「真」の理由㉑

帝京贔屓

読者の皆様の中には私の「帝京贔屓」を批判したくてたまらない方も依然としていらっしゃる事であろう。勿論批判というのは文明社会において極めて重要な営為であるから、根拠の伴う批判であれば歓迎したいというのが私の立場である。しかし「これまでの日本の医学部入試史上帝京大と科目数が同じか、或いは更に少ない入試も実施されてきており、現行の医学部入試においても少数ながらその様な入試も実施されているのだから、帝京大のみ殊更に取り上げる合理的な理由は何もない筈である」といった理由で私を批判しようと考えているのであれば、的外れな理由であると言わざるを得ない。過去の入試に関してはきりがないのでここでは取り上げない事とするが、以前本コラムで見てきた近畿大に代表される共通テスト利用方式を考慮に入れると、帝京大の一般方式と同等乃至は更に少ない科目数で受験可能であるケースも存在するが、共通テスト利用方式は複線入試に過ぎず、一般方式と比べれば合格者数も遥かに少ない事は言うに及ばず、共通テストを利用する以上、大学が自前で学科試験を準備する必要性もないのである。また近年であれば、募集人員10名の後期試験ではあるものの、英・数2教科のみの入試が私立医学部で導入された事が、医学部受験の業界では大きな話題となったが、こちらは入試問題を大学が自前で用意している事は論を待たない反面、当然の事ながら英・数2教科分しか用意されず、総試験時間の短縮にも結びついているのであるから、入試関連のコストを削減する為に試験科目を少なくしているという側面も決して否定は出来ないであろう。

帝京大の入学試験

一方で、帝京大の入学試験はどうであろうか? メインの入試で、現状の私立医学部入試の標準的な科目構成と言える、英・数・理科2科目の計4科目よりも少ない科目数を課している事は紛れもない事実であり、入試の運営の側面を考えても、国語も含めた6科目の入試問題を出題している(更に少し前までは、本コラムでも述べた通り科目内にまで選択問題が用意されていたのだ)のであるから、入試の実施時間そのものが多少短くなる事を除けば、特にコストカット的な要素も見当たらないのである。しかも、これまたかなり以前に取り上げた話題であるが、帝京大の場合一次試験と言えども板橋キャンパスのみでの実施であり、時間単位で使用料を請求される事の多い貸会議場等での実施はないのであるから、科目数を減らして試験時間を僅かでも切り詰めた所で、帝京大医学部の実施形態を鑑みるに削減可能なコストは微々たるものであろうと推測出来る。そして極端な事を言えば、直前期に他の多くの医学部と同様に4科目入試、或いは一部旧帝大等の独自試験と同様に国語も含めた5科目入試に突如変更する事でさえ、物理的には可能であると評価しても過言ではないであろうが、大学側からするとその様な変更をまるで意図してはいない様である。勿論現実に突如として入試科目を主に増やす方向で変更するのは、受験生に対する裏切り以外の何物でもなく、万一その様な暴挙に出た場合、その年度の受験者数のみならず、翌年度以降の受験者数の大幅減という結果を招く事は火を見るより明らかであるから、この先帝京大医学部が入試科目を増やす事があろうとも、十分な移行期間を設けて変更に踏み切るであろうが、少なくともリソース的には何時でも入試科目を増やす事が出来ると見られるにも拘らず、医学部が特に人気である現代において入試科目を増やそうとする様子さえ見られないのは、帝京大医学部が現行の入試科目の構成に揺るぎない自信を持っているからに他ならないであろう。あの科目構成の利点の一つとして、多様なバックグラウンドを有した学生を集められる事に関しては、ほぼ議論の余地はないであろうが、単に多様な人々が集まるのみでは、組織として成り立たなくなる事も容易に想像がつくであろう。では何故帝京大医学部はあの入試科目を堅持するのであろうか? 次回以降はその詳細に目を向けていきたいと思う。(続く)

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