医学部受験で小論文・面接試験が課される「真」の理由㉕

少年少女の憧れの職業

前々回の本コラムにて、少年少女の憧れの職業の一例として「忍者」(少女であれば「くのいち」という事になるであろうが)を挙げた事を記憶している方は少なくないであろうが、果たして彼ら彼女らは忍者のどの様な側面に憧れているのであろうか? 勿論どの様な点に憧れるのも個人の自由ではあるが、猛スピードで陸上はもとより水上も駆け抜け、大凧を背負って空を飛び、更には手裏剣や鎖鎌等の少々変則的な武器や、忍者の代名詞とも言える奇想天外な数多の忍術を駆使して、戦闘員としては格上と見做される侍をも圧倒し、社会の平穏を陰から支える様な、強さと正義の心を兼ね備えた忍者に憧れている方が多い事であろうと私は推測している。何らかの既得権益と結びついた巨悪(と見做されてもやむを得ない集団や個人)が蔓延る現代社会において、前述の様な忍者への憧れをもつ少年少女は真っ直ぐで立派な心根の持ち主であると、時代劇の典型的な登場人物であればどうしても悪代官に憧れを抱いてしまう私は心の底から思わないではいられないのであるが、それにしても実在した忍者とはそれ程華々しい職業であったのであろうか? これも前々回で述べた通り、コスプレ等の一種ではない、文字通りの忍者という職業は既に実在してはいない為、実際に忍者がどの様な仕事をどの様な様態でしていたかについては現状では分からない事も多く、今後の忍者研究を待たねばならない事は論を待たないが、少なくとも華々しい職業ではなかった事はほぼ確実である。「忍者の一番の見せ場とも言える、忍術の駆使が実際には出来ないのだから、華々しさを欠くに決まっているだろう」というシニカルな意見も聞こえてきそうではあるものの、忍術の存否も然るべき研究者が将来結論を出すべき論題なので、ここでそれ程大きな話をするのは自粛したいと思うが、少なくとも一見すると非科学的であるからと言って頭から否定する態度は、恐らく然るべきインテリジェンスを有しているであろう読者の皆様には厳に避けて欲しいと思う。相応の論理トレーニングを積んだ方ならば分かるとは思うが、あるものが存在しない事を証明するのは存在する事を証明するよりも遥かに難しく、更に論理等という面倒なものを引き合いに出さなくとも、その様な態度をどの様な場面でも曲げられない方は将来幼子相手に、クリスマスに近い時期になって「サンタクロースなんかいないんだ!」と怒り気味に言い放ち、幼子を大泣きさせる未来しか私には見えず、それが平穏な家庭の年末の光景とはかけ離れたものだと思うからである(既にこの光景を現実のものとしてしまった方もいらっしゃるかもしれないが…)。

忍者と医師の共通する部分

尚、私は子供相手だから適当な事を言って誤魔化す事を示唆している訳ではない。そもそも現状において我々が「忍術」や「サンタクロース」に対して抱いているのは断片的なイメージに過ぎず、具体的にどの様なものであるか誰にも分からないのであるから、大人も子供もその存否を明確にする事は出来ないのである。従って非科学的と言われようが何と言われようが敢えて忍術が実在する立場で論を進めたいと思うが、それでも忍者は華々しく忍術を使う事はないと推定出来る。理由は簡単で、忍者というのは現代で言う所のスパイであり、それ故に目立ってはいけない身分だったからである。勿論目立ってはならないのは諜報活動時のみならず日常生活においても同様であり、平素の彼ら彼女らは農民に偽装していたケースが多かったと考えられている。もっとも「偽装」というのも語弊があり、彼ら彼女らも普通に畑を耕して農業生産に貢献していたという点を考慮すれば、所謂普通の農民と何ら違いはなかったと見られる。そして諜報活動が必要になった時に少年少女が胸躍らせる様な忍者がいよいよ登場する……等と思ったら大間違いで、敵対勢力の屋敷の天井裏に隠れて、決定的瞬間を見たり聞いたりするまでただじっとしている、いわば人間監視カメラ・人間ボイスレコーダーとでも言うべき地位を占めていたのが実際の忍者であったと見られ、しかも時代劇でも度々描かれている通り、天井裏に間者がいる事に気づかれ、槍で突かれて即死するといった無残な最期を迎えた忍者も少なくはなかったと考えられる。「結局今回は忍者とサンタクロースの話に終始し、その上忍術の存在を肯定する等と言いつつ、少年少女の忍者への憧れをぶち壊しているだけではないか?」という厳しいツッコミを入れる方もいらっしゃるかもしれないが、まずサンタクロースは引き合いに出しているに過ぎないし(もしサンタクロースが主題だと思った方がいらっしゃったら、ご自身の読解力を早急に見直した方が賢明であろう)、更に忍者と医師には共通する部分もあるし、それ故お爺さんお婆さんも輝ける仕事だと思っているのは私だけではないであろう。次回はその詳細について見ていきたいと思う。(続く)

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